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不安になった時、カウンターの中のママが私に気付いた。 「上里さんかな?」  はい、と返事すれば、申し訳なさそうに眉尻をさげ、今日は貸切の為、店に入ってもらえなかったと詫びた。  そして、私の携帯が繋がらないので、次の店が決まったら此処へ連絡するから、私だけ待たせて欲しいと言って、友人が出て行ったと教えてくれた。  兎も角、座ってと言われ、入り口に一番近いカウンター席に座るとママが言う。 「上里さんは、ミント大丈夫?」 「えぇ」  そう答えると、薄い琥珀色に鮮やかな緑のミントの葉が浮かぶグラスが前に置かれる。 「お詫びよ。飲んでって、私と同じで悪いけど」  自分のグラスを持ち上げ、ウインクして見せるママは40は超えて居るだろうけど、酷く可愛らしい。  一杯くらいなら良いかと、グラスを上げて合図し口を付けると、爽やかなミントの味がする。 「ミント ジュレップ! メーカーズ マークよね?」  ママの正解と言う声が聞こえ、密かに微笑んだ。  ミント ジュレップは家にも置いてある大好きなリキュールだ。  暑い夏に最適な感じのお酒だが、冬の寒い日に、熱いくらいに暖房を聞かせた部屋で飲むのも捨てがたい。何だかんだで一年中口にしている。  その時、後ろから声がかかった。 「隣、良いですか?」 「良いですけど、私部外者よ?」  訳が分からない風な男に、ママがサラリと今の私の状況を説明する。  男は相づちをうって聞き、分かったようで、それでは連絡が来るまでと言って、横のスツールに腰かけた。  横に座った時の威圧感に男の方を見れば、明らかに大きい男と分かる。座っているのに見上げる感じがするのは、私が小柄な部類に入るからだけではないだろう。  そして、顔を見れば、間違いなく良い男で、私の好みど真ん中。友人からの連絡が遅い事を祈ってしまう。 「何を飲んでいるの?」 「ミント ジュレップよ」  壁に並んでいたボトルの中から、緑色の封蝋の付いたボトルを指さす。 「メーカーズ マーク? バーボンか」 「外れ、メーカーズ マークだけど、ミント ジュレップはリキュールになるのよ」  他愛のない会話を少しばかりした所で、願い虚しく友人からの連絡が入った。
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