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グラスに入れられたチョコレートを一つつまみ上げ、意味も無く見詰める。
薄い板状のそれは、僅かな熱でも溶けていく。その脆さが、胸の中の寂しさに拍車をかける。
「キッス イン ザ ダークです」
差し出される赤い液体に涙が一粒溢れた。
それを誤魔化すように一口、口に含む。
普段は暇になると色々話し掛けてくるマスターなのに、見てみない振りをするマスターの距離感が、今は嬉しい。
キッス イン ザ ダーク、暗闇のキス、一秋との初めてのキスも暗闇の中だった。
一秋の携番が手元にあり、一秋に興味もあったが、何となく連絡をしないまま日は過ぎて行った。
出会ってから二週間、漸く明日は休みの週末、私は数合わせの為に合コンに参加していた。店は勿論、友人達と良く利用する一秋に会った店だ。
とりあえず、友人の狙っている男が居るから、その男見たさに行った合コンだった。
三対三で男女別れて座る事に、何だか可笑しさが込み上げる。如何にも合コンって感じが、今一つ好きになれない。
今日は早く帰ろう、座った途端に心に誓う。車だからとアルコールを断り、ウーロン茶を頼む。
男達は医療関係者らしく病院勤めの友人と何やら話しているが、話題に興味も無く、ただ時間が過ぎる事を、愛想笑いを浮かべて待つ。
友人の狙い目は、垂れ目の優しそうな男で、総合病院の経理をしているらしい。
兎に角、まったく興味が無い男達に、相槌を打ちながら眼だけ動かして店内を見渡す。
70年代のアメリカを模した店内は、ミディアムブラウンの腰板に小花柄の淡い色使いのクロスが張られた壁。
そこにノーマン・ロックウエルのポスターが掛けられている。テーブルには、赤いギンガムチェックのテーブルクロス。
店内奥には大きなジュークボックスが置かれていて、低いボリュームでオールディーズが流れている。
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