犬ごころ、飼い主ごころ

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    そんな風に、ほのぼのとも殺伐ともした犬話を聞いていると。 「……ん?」 ふと、パークの隅にいつもは見ない奴がいた。 柴の子犬、いや、子犬よりもちょっと成長したくらいか。 飼い主は見当たらないし……。 「ジャック、ちょっといいか?」 『どうしました?』 「あいつ、どこの子?」 『あぁ、僕もよく知らないんです。 話しかけようとしたら逃げられちゃって。 気になりますよね、飼い主さんも見当たりませんし。』 『俺が行こうか?』 「バカ、お前が来たら俺でも逃げるわ。」 『あぁ? なんだ進一郎、噛み殺すぞ。』 「な、なんだよ……。 ちょっと足が長いからって。」 『あんたほどじゃねぇよ。』 『ちょっと、話がそれてるよ。』 リリーが言う。 『わたしが行くよ。 ポメラニアンの魅力に勝てる犬はいないんだから。』 リリーは意気揚々と柴犬のところへ行き、何かを話す。 ところが柴犬は、リリーの顔を見ると慌てて逃げ出した。 続いて、意気消沈でリリーが戻る。 『あのチビ、ご主人の前じゃなかったら噛み殺してやるのに。』 「なにお前ら、噛み殺すの流行ってんの?」 狂犬病かよ……。 にしても。 「あいつ、何か気になるよな……。」 パークの隅で小さく固まる柴犬。 なんなんだろう、あいつは……。
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