犬ごころ、飼い主ごころ

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    仕方ない……。 「あ、あの、佐藤さん。」 「……?」 不思議そうな顔で俺を見るオバサン連中。 「あの柴犬って、あんまり見ない子ですよね?」 「あぁ、あの子ね。」 「知ってるんですか?」 「さぁ、私もあんまり知らないんだけどね。 小学生くらいの小さな子が一人で来てね、あのワンちゃんだけ置いてどこか行っちゃったのよ。」 「え?」 それって……。 俺は柴犬のところに行き、しゃがむ。 「お前、飼い主は?」 慌てて逃げようとした柴犬を捕まえ、言う。 「どこ行ったんだ?」 『…………。』 「お前さぁ、もしかして、捨てられたんじゃ……。」 『ちがう!!』 予想以上に大きな声で叫ばれたので、俺は焦って手を離してしまった。 俺の手から離れた柴犬は、俺の足に噛みつく。 『メグちゃんが僕を捨てるはずない!!』 「メグちゃん、か。 それ、お前の飼い主の名前か?」 『そうだ!! メグちゃんは可愛くて優しくて……。』 そこまで言って、柴犬は驚いたように顔を上げた。 『僕の言ってることがわかるの?』 「あぁ、俺は動物の言葉がわかるんだよ。 だからさ、何か事情があるなら言ってみろよ。 力になれるかもしれないだろ。」 俺が言うと、柴犬は少し考えるように俯き 『メグちゃんが、僕を捨てるはずないんだ……。』 と、小さく言った。
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