犬ごころ、飼い主ごころ

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    それから、夕方まで待ったがメグちゃんとやらが戻ってくることはなかった。 「まもなく閉園の時間です。」 アナウンスの声が、俺とリンダと柴犬しかいなくなったドックパークにむなしく響く。 『もう来ないですわよ。』 俺の膝の上で退屈そうに寝転がるリンダがそう言った。 『来る。』 『来ないですわよ。 いい加減諦めたらどうですの?』 『……来る。』 『あなたは捨てられましたのよ。』 『……うぅ。』 「あーあ、泣かした。」 『わ、わたくしは本当のことを言っただけですわ。』 リンダはそう言って立つと、リードをくわえて俺に寄越す。 『帰りますわよ。 飽きましたわ。』 「でも……。」 『本人が来ると言ってるんですから、好きにさせておけばいいですの。 本人と飼い主の問題に首を突っ込むのは野暮ですわよ。』 「まぁ、そうだけどさ……。」 納得はいかないが、いつまでもここにいるわけにもいかないので、リンダの首輪にリードをつなぎ、立つ。 「お前はどうすんの? ここ、閉まったら追い出されんぞ。」 『……待つ。』 「待つって……。」 『メグちゃんが、むかえに来るんだ。』 「はぁ……。」 めんどくせぇな……。 これだから子犬は嫌いなんだよ。 ため息を一つ、俺は柴犬を抱き上げた。
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