犬ごころ、飼い主ごころ

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    帰り道、逃げられたら困るから柴犬は抱えて歩く。 「お前、名前は?」 『チビ……。』 柴犬は諦めたのか、素直に答えた。 『本当は、ちがうけど……。』 『ちがわないですわ。 名前の通り、チビですわよ。』 『そうじゃなくて、本当の名前は別にあるんだ。』 「なんだそれ。 犬が偽名か?」 『チビは、メグちゃんがくれた名前なんだ。』 ますます意味がわからないな……。 「つまり、メグちゃんは本当の飼い主じゃないってことか?」 『………。』 「なんで本当の飼い主のところに帰らないんだよ。」 『あそこの人は、僕のこと嫌いだから……。』 「え?」 『僕のこと、大きな声で怒るし……。 散歩にも連れてってくれないし……。』 なるほど、な……。 これは思ってたよりややこしくなりそうだ。 『だから、逃げ出したんだ。』 「それで、メグちゃんに拾われたってことか。」 『うん。 だけど、メグちゃんの家の人が僕を飼ったらダメだ、って……。』 「なるほどな……。」 『ねぇ。』 と、リンダが俺のズボンを引っ張った。 「どうした?」 『あれを。』 リンダが首で示した方向。 電柱に、一枚の紙が貼ってあった。
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