獣々見聞録

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    「生物は現在確認されているだけでも200万。 未確認のものも含めると、一千万とも一億とも言われ……。」 五時間目はクソつまらない生物の授業。 俺はぼんやりと、窓の外の空へ目をやる。 「おい、武田。 お前の好きな動物、言ってみろ。」 でたよ、生物の北村のつまらない質問。 早く答えろよ、武田君。 あ、俺か……。 「動物っすか?」 「そう、お前だって好きな動物くらいいるだろ。」 「……カブトムシ。」 俺が答えると、クラス全体がクスクス笑いに包まれる。 「カブトムシってお前、虫じゃないか。 他にあるだろう、ネコとかイヌとか……。」 『カラスとか、さ。』 窓の外に見える満開の桜。 その桜の中にとまったカラスが言う。 「嫌いなんですよ、動物。」 「なんだお前、つまらない奴だなぁ……。 じゃあ鈴木……」 つまらない、か……。 それはお前らだって同じだろう。 みんな勉強だの受験だのって。 同じような顔の奴らばっかり集まって、並んで机に座ってよ。 俺も含めて、さ……。 「ほんと、つまらねぇよ……。」 『だったらやめちまえよ。』 「うるせぇ。」 消しゴムを投げると、カラスは軽く鳴いて飛び去った。 あー、つまらねぇ……。 俺、武田進一郎。 県立桜川高等学校二年。 ただ動物と会話が出来るってだけの、つまらねぇ男だ。
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