獣々見聞録

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    北桜川のツバメ。 たしか、最近タマゴを産んだばかりだったよな……。 一旦家に戻って自転車を出すと、ライトの部分にカラスがとまる。 『なんだ、自転車変えたのか。』 「買ったばかりのマウンテンバイクなんだ。 汚すなよ。」 『俺は前の方がよかったけどな。 あの、カゴにとまるのが好きなんだよ。』 「あんなダセェの乗ってられっか。 さ、飛ばすぞ。」 そう言って、ペダルを踏み込む。 バランスを崩したカラスだったが、すぐに立て直してライトに器用にとまってみせた。 『おおぅ、これはこれで悪くないな……。』 「で、どれだけヤバいんだよ。」 『かなりピンチ。 もしかしたら、もうダメかも。』 「…………。」 くそ……。 急にマジな話し方しやがって……。 『近所のガキが巣を見つけてよ。 あいつら、分別ないだろ?』 「なるほどな……。」 『今は俺のツレが粘ってるけど、それも時間の問題だな……。』 「お前らは、何で助けんだよ。 もともとツバメはお前らの餌だろ?」 『惚れちまってんのさ、俺らは。 餌とか天敵とか関係なしにな。』 「はっ、バーカ。」 『バカで結構。 バカになれねぇ人間様よりはマシだよ。』     「そいつは言えてる。」 ギアを上げる。 桜川にかかる橋が見えた。 あれを渡れば北桜川だ。
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