獣々見聞録

8/10

88人が本棚に入れています
本棚に追加
/336ページ
    片手に数個の小さなタマゴを持ち、もう片方の手で自転車を押しながら帰路につく。 『進一郎さ、いい加減その人間嫌いなんとかしろよ。』 と、カラスがそんなことを言う。 「なんだお前、まだいたの?」 『そんなんだから友達できねぇんだよ。 もっとこう、コミ……コム…ん?』 「コミュニケーション、だろ。」 『そう、それ。 コムニケーションをとれよ。』 「ほっとけ。」 人間の友達なんて、別にいらねぇよ。 自分のためだったら平気で人を裏切るし、世間体ばっかり気にして嫌いな奴とも仲が良いふりをする。 俺の知ってる中で一番嫌いな種族だ。 「お前らはいいよな、自由で。」 『はは、俺らからすれば人間は自分から望んで自由を無くしてるように見えるけどな。』 「望んで自由を無くす、ね……。 その通りだよ、まったく。」 学校、社会、みんな一人になるのが怖いから同じルールの中で一緒になって。 のけ者にされるのが怖いからって、自分を捨てて世間体ばかり気にしてさ。 バカみたい。 「お前らが羨ましいよ……。」 そう呟いたとき。 突然、空が暗くなった。 いや、正確には、空を覆うほどの数のカラスが頭上に現れたんだ。 『進一郎、依頼の礼を忘れてたよ。』 『俺たちからの感謝の気持ちだ。』 空から虫やら魚やら野菜やらが降ってくる。 ……って 「生ゴミじゃねぇか!!!!」 『失礼な!! 俺たちにとっちゃご馳走なんだぞ!!』 「わかった、気持ちだけもらうから!!」 買ったばかりの愛車が生ゴミまみれになる前に、俺は慌てて駆け出す。 「まったく……。」 タマゴを落とさないように慎重に走りながら、俺は小さく笑った。 ほんとにこいつらは、まったくどうしようもなくバカで、最低で 最高だ。
/336ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加