獣々見聞録

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    武田豆腐店。 時代遅れの豆腐屋が俺の実家だ。 「あ。」 自転車に鍵をかけて顔をあげると、丁度帰ってきた妹と鉢合わせた。 武田二葉。 県立桜川中学二年。 俺とは違ってデキる奴だ。 「おかえり。」 「うん。 お兄ちゃん、どっか行ってたの?」 「あぁ、ちょっとな。」 「ふーん。」 そう言って、二葉はじろじろと俺を見る。 「変なことしてないよね?」 「変なことって何だよ。」 「自転車の前カゴにカラス乗っけたりとか。」 「う……。」 俺が口ごもると、二葉は呆れたようにため息をついた。 「もう、いい加減にしてよね。 お兄ちゃん、カラスしか友達いないのはわかるけど、ご近所の目とかもあるんだから。」 「ご、ごめん……。」 「でも、ちょっと羨ましいかも。 わたしもお兄ちゃんみたいに動物と話せたらなぁ……。」 二葉は俺が動物と話せることを知っている。 というか、二葉以外は信じてくれないんだよな……。 「やめとけ。 俺みたいにカラス以外の友達が出来なくなるぞ。」 「あ、それは嫌かも。」 「まぁ、お前なら人間とも動物とも仲良く出来るだろうけどさ。」 人間が嫌いな俺と違って、二葉は人間大好きっ子だからな。 愛し愛され、だ。 デキる妹を持つと、兄としては嬉しいような情けないような。 複雑だよ、まったく……。
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