第一ノ章

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第一ノ章

慈愛の微笑みを浮かべて天使は佇んでいる。 身に纏った衣は風もないのに揺らめき。 支えもないのに宙に浮いている。 ゆらゆらと水に漂うように・・・。 天使の前に一心に祈る男が居た。 瀕死であり顔は土気色だ。 額に浮かぶ脂汗を拭うことさえ忘れて。 震える手を組み合わせている。 天使の羽は男を包むように優しく広げられ。 辺りには光が満ちあふれていた。 「お救い下さい…天使様…!」 男には時間が残されていなかった。 やっとの思いで天使を探し出したのだ。 そして縋った。 天使は手を差し伸べる。 麗しく伸びた指、その先には真珠色の唇。 うつくしい、と男は思った。 思っただけでもう手は上がらない。 すぐ目の前に救いの手が在るのに…。 倒れ伏した男を天使は見下ろしていた。 先ほどとまったく変わらない微笑みを浮かべて。 そして役目を終えて消えた。 泡のように。 告死天使は天へと還ったのだ。
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