1人が本棚に入れています
本棚に追加
第一ノ章
慈愛の微笑みを浮かべて天使は佇んでいる。
身に纏った衣は風もないのに揺らめき。
支えもないのに宙に浮いている。
ゆらゆらと水に漂うように・・・。
天使の前に一心に祈る男が居た。
瀕死であり顔は土気色だ。
額に浮かぶ脂汗を拭うことさえ忘れて。
震える手を組み合わせている。
天使の羽は男を包むように優しく広げられ。
辺りには光が満ちあふれていた。
「お救い下さい…天使様…!」
男には時間が残されていなかった。
やっとの思いで天使を探し出したのだ。
そして縋った。
天使は手を差し伸べる。
麗しく伸びた指、その先には真珠色の唇。
うつくしい、と男は思った。
思っただけでもう手は上がらない。
すぐ目の前に救いの手が在るのに…。
倒れ伏した男を天使は見下ろしていた。
先ほどとまったく変わらない微笑みを浮かべて。
そして役目を終えて消えた。
泡のように。
告死天使は天へと還ったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!