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理科室に辿り着くと、ほんの少し開いていた扉の隙間から彼女の姿が見えた。
ボクは彼女に遅くなったことを謝りながら理科室に入ろうと扉に手を掛けようしたが、掛けないことにした。
どうやら先客がいるようだ。大柄な風貌にシワの寄った黄ばんだワイシャツから、男性教師と思われる。
ボクは2人の間に入れるような性格ではないので、2人には悪いが、こっそりと扉から覗くことにした。
男性教師の背中が遠くなる。彼女は、いかにも不満そうに見ている。
「おい、お前はここで何をしてんだ」
「別に何も。それとも何ですか?用がなければ理科室に来ちゃ行けないんですか?」
「ぬぅっ、貴様ぁ!」
彼女の顎をつかみあげる男性教師。
「どうせ彼氏と一発ヤルためにいんだろう!ああ!!」
「何言っているんですか?先生は、生徒誰もがどこでもヤッていると思ってるんですか?」
そう言うと、彼女は鼻で「バカじゃないんですか?」と嘲笑した。
その行為をされて怒らないわけはなく、男性教師は体重を掛け、実験用の大きなテーブルに彼女を倒した。
「きゃあ!やめて!」
彼女はそこから抜け出そうと、必死になって暴れる。当然のことだが、力関係は圧倒的に男性教師が有利なので、彼女は無意味にじたばたしているだけだ。
「お前が、悪いんだ―――お前が―――」
鼻息を荒くした男性教師は今にも彼女を襲おうとしている。
このような状況をボクが見物していいものではないが、キミとよく似た彼女の肌を記憶に焼き付きたい感情もある。
まるで、これからキミが襲われそうになっていると錯覚してしまいそうだ。
そう思ったら、ボクの感情は思春期特有の異様なまでの興奮とは違って、深い闇の底で孤独になったような悲壮感のようなものが押し寄せてきた。
あのとき―――キミの安らかに眠っているような顔を目前にした際にボクの全てを数秒足らずで支配した感情。
背中合わせに誰かを感じたい。
気付くとボクは片手をポケットに突っ込みながら、理科室の扉を勢いよく開けた。
テーブルの上の彼女の瞳は、泣き出しそうなほどに潤んでいた。
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