忘れられない

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「誰だ!」 教師は鋭い目つきでボクを睨みつける。 開け放しのままにするわけにはいかないので、とりあえず扉を閉めたボクは“左手に持っていた物”を険悪な態度の男性教師に向けた。 ピロリーン 無音となっていた理科室に、軽快な音が響く。 「お前、何をした!?」 「えっ?何をしたって、そりゃあ―――」 ボクは左手に持っていた物の画面を男性教師に見せる。 そこには無防備にも凄まじい目つきでこちらを睨みつける男性教師と、その後ろのテーブルには涙ぐんだ彼女。 「どうします、先生?」 ボクはさながら脅迫じみた笑顔を浮かべた。 男性教師は画面を見るなり、奪おうと襲いかかってくるとボクの脳では予想していたのだが、しょせんボンクラだ。 男性教師は、何か策を練っているかのようにじっと黙っている。それとも、今頃になって自分の浅はかさに気づいたのだろうか、いや、それはないだろう。 ボクは男性教師に見覚えがあった。 髭を一本も生やしていない整った顔立ちに、下に垂れ下がった瞳。 生徒からも教師からもバカにされている国語教師、曽我 洋(そが ひろし)。 「いつもは小さい声なのに、こういう時だけは態度までも大きいんですね。もしかしたら初めてじゃないんですか、生徒を襲うの?」 そう言った途端、曽我は沈黙を破り「は、は、初めてに決まっているだろう」と慌てて否定した。 「まぁ、いいです。先生が初めてだって、初めてじゃなくたって僕には関係ありません。それよりも―――」 と言ってボクは左手を振る。 左手の行く先を必死に目で追っている曽我は、思ってた以上に面白い。 「どうします、これ?」 「何が望みだ」 「何が望みって?」 「金なのかということだ」 「ふっ、金―――」 ボクは男性教師を鼻で笑って、言った。 「バカですね、先生。さっきから聞いていると先生には、僕ら学生に誤った先入観をお持ちのようですね?しかも、とても強い」 ボクは左手をポケットに突っ込んで、曽我にゆっくりと歩み寄る。 ちらりと視線を変えると、心配そうな瞳でボクを見つめている彼女。涙は止まっているものの、表情は悲しみを拭い切れていない。 そんな彼女に、ボクは「大丈夫だよ」と言って微笑んだ。 すると彼女は少し安心したのか、小さく頷いた。
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