忘れられない

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カノジョに向けた微笑みのまま近づき、顎を掴み上げる。 曽我にとって今のボクは、狂気に満ちた怪物としか見えてないだろう。 「かっこいいですよ、先生。特徴のない顔からとても目立つブサ顔に大変身だぁ。これなら人気がでますよ…“ある意味”」 「どうするつもりだ」 顎を掴まれているにもかかわらず無駄に滑舌の達者な曽我。 どうやらボクのことを何も理解してないようだ。仮にも教職員たる大人が…いや、教職員だから理解していないのか。生徒の言葉を信じず、1人がそうであれば全てがそうだと思っている。 キミが願ったように、世界は今からでも壊れてしまったほうがいいかもしれない。 曽我のような歪みきった人間が溢れる、落ちるばかりの世界なら…。 ボクは曽我の耳元で囁く 「どうもしませんよ、先生」と。 顎から手を離し、曽我の乱れた服装を整える。 少しは安心しただろうと思い顔を覗くと、曽我は表情を緩めることはおろか、先ほどまでよりも歪んでいる表情を見せた。 その表情のまま、恐れながらも曽我は問う。 「…なぜ何も求めない」 「何も、とは?」 まるでボクのその言葉が、切り替えスイッチだったかのように、曽我の表情は一変した。「そうだろう!?誰だってそうだ!俺の秘密を握って!金やら単位やらを要求して、俺をバカにしやがる!!お前だって、俺を心底バカにしてんだろ!!?」 語気を荒げる曽我。飛んでくる唾なんてお構いなしだ。 どうやら、このような場面に出くわしたのは初めてでないらしい。まぁ、そんなことはわかっりきっていたことだが。 「そうですね。えぇ、バカにしてますよ」 ボクは素直に頷いて言った。下手な嘘をつくより、正直に言った方のがいいだろうと思ったからだ。それに、それに関しては曽我の先入観は的を見事に射ているのだから。 「でも、ボクのそれは先生の顔や服装、頭脳のことではない」 テーブルに手を向ける。その横ではカノジョが体重をテーブルに預けている。 「自分が周囲から嘲笑されてるからといって、そのはけ口として自分より弱い人間を支配した気になっているからですよ」 まるで平等なんて戯言を述べるだけの政治家だ。 もしも、キミが隣にいたら隠れもせずに素直に笑うだろう。
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