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「冗談…ですよね?」
ニコニコと笑いながらも、どこか不気味なカノジョ。
ボクは「冗談て?」と、どうしてその質問がカノジョの口から言葉となって出たのか、経緯すらも微塵も理解していない平凡な顔をして、それを横に傾げる。
カノジョは何も言わず、ただただ足音を鳴らしながらボクに近づいてくる。
ボクの胸の前まで来たカノジョの透き通る瞳は、ボクを真っ直ぐに見つめている。
何だか、カノジョはボクに恋をしているのではないか、と勘違いしてしまいそうだ。
わざわざ理科室に呼ばれたのだって、もしかしたら告白をされるのではないか、と少しばかり期待したものだ。
だが、それはボクの世迷いごと。
カノジョがボクを好きになることなんて100%ありえないし、ボクがカノジョを好きになることだって120%ありえない。ましてや両想いは、非現実的なことだ。
さしずめ、勉強を教えてほしいとか、そういった軽い悩み事だろう。
ボクは、穏やかな笑みで、先輩らしく振る舞う。
「どうした―――のごぉ!!」
あと一文字だった。あと一文字で、ボクが考えたようなありうることが、「実は…」に続く言葉が返ってくるはずだった。
はず…だった、のに―――。
「痛いじゃないか!」
さすがのボクも、これには平生を抑えきれない。
「痛いじゃないか…じゃないですよ!!私の心にあれだけ深い傷を負わせて」
「深い傷?もしかして、ボクが遅れたせいで、あやうく襲われそうだったから?それについては悪かったよ、ごめん」
小さく頭を下げるボク。それでいてもカノジョの態度は変化しない。
「私が言ってるのは、そういうことではありません!!」
かえって悪化したようにさえ思える。
「じゃあ、僕が何をしたっていうの?教科書がたくさん入った鞄を、いきなり頬にぶつけられるような悪質なことを」
ぶつけられたせいで、頬は熱く感じ、じんじんと痛む。
質問を向けられたらカノジョの肩は小さく震えている。寒いのだろうか。
そういえば、キミはいつもマフラーと毛糸の帽子、手袋を常に身につけていたような気がする。結構な寒がりだったのだろうか。
「私の名前を覚えてないってことですよ!!!」
「はっ?」
ボクは誰がどこから見ようとも間違いようのない顔でカノジョを見ていただろう。
まるで無理難題に挑んだ馬鹿者のような顔で。
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