忘れられない

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『とうするんだ、ボク!!』と、何を言うか決まってもいないというのに発してしまった過去(数秒前)のボクを責める現在のボク。まぁ、どちらもボクに変わりはないのは理解している。二重人格でもあるまいに。 カノジョの姿を視界から外し、理科室を見渡すボク。 わぁ、広いな。フラスコや試験管、ビーカー。そういえば明日、理科あったけ?もしかして実験あるかな。と、気を紛らそうとしても全く紛れない。何だか狭くも感じてきた。それに、鉄が入っているのではと思ってしまうほど肩は重い。 窮屈から一刻も早く抜け出したいボクは、カノジョに視線を戻すことにした。 「何に悩んでいるんですか?」 なかなか話を切り出さないボクを見かねたカノジョは、ついに訊いてきた。 質問されたからには答えるべきかもしれないが、それは間違っているかもしれない。と、ふと疑問が浮かんできた。 ボクとカノジョの面識は、登下校を一緒にするだけの仲だ。学校で出会うことは少なく、会ったとしてもボクもカノジョも素知らぬ顔をして通り過ぎるだけだ。友達のようで友達でない、友達以前のちょっとした知り合い程度の関係なのだ。だからボクの悩み事を告白する必要などない。 「いや~、ごめん。僕の顔そんなに悩んでいるふうに見えた?たまに言われるんだよね」 ボクは、自分でも気色悪く感じる程のヘラヘラした笑みを浮かべながら嘘を吐いた。 通じているようにも、通じていないようにも見えるカノジョの曖昧な表情。テレビで大爆発だったスタジオを一瞬で凍らせるスベリ芸人の気持ちが少しわかるような気がする。 カノジョはゆっくりと口を開いて、言った。 「本当は姉のことについて悩んでいるんじゃないですか」と。 ボクを哀れむように。 内心驚きながらも冷静に訊くボク。 「姉のこと?」 「あっ、そっか。私の名前知らないんですよね。では―――」 カノジョは悲しげな表情をしてそう言うと、それがなかったような笑みを浮かべた。 「私の名前は、朝宮 由衣子(あさみや ゆいこ)。―――朝宮 麻衣子の妹です」 そうか、キミの妹か。そういえばキミから紹介されたんだ。 ボクは今になってカノジョが何故ボクと登下校を共にするのが1ヶ月前からなのかわかった。 カノジョとは、“キミが死んだ”次の日から共に登下校するようになったのだと。
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