忘れられない

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ボクはおそらくテレビを観ていないであろう彼女からの傘を受け取らず、正論と呼べるような呼べないものを言った。 「今日は晴れるらしいよ」 「なんでそう思うんですか」と言いながら、傘をボクの身体に押し付けようと接近する彼女の瞳は、あの夜のキミのように水を得た魚のような色をしている。 「テレビで言ってたよ」 「それは降る確率と降らない確率で分けると、0:100なんですか?」 「絶対とは言わないけど、どちらかと言えば、降らないと思うよ」 「むーっ」と言いながら頬を膨らませる彼女。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。 自分の本心とは真逆でも、彼女の意見を肯定するべきだったと今更ながらボクは思った。 『はぁーっ』 内側で溜め息をつきながら、外側では肩を落とし、彼女の機嫌を直すべく問いかける。 「なんで雨が降ると思うの?」 そう投げ掛けると、彼女は待ってましたと言わんばかりに語り始めた。 「いいですか、この世界には絶対というようなインチキ臭い言葉なんかが辞書で調べれば載っていますが、そんなのはあっちゃいけないんです!たとえ世界に絶対と豪語されるような代物があったとしても、それはいつしか絶対ではなくなる」 天上に人差し指を真っ直ぐに指す。 「ゆえに、この世界に100はなく、そして0もまた同じです」 言い切ったぞ、と言いたそうなドヤ顔を向けてくるが、さっぱりわからない。言葉が理解できても話は理解できず、耳に入ってきては、まるで通過地点かのように耳から出ていってしまう。 だが彼女の話の根本が理解できなかったわけではなく、最初から言いたいことには予想がついていた。ただ彼女が世界だの何だのとスケールを大きく話したためだ。あの夜のキミのように。 こちらの意見を待ち構えている彼女をこれ以上待たせると機嫌の悪化の可能性はいなめないが、念のためだ、確認しておこう。 「つまり、言いたいことはこうだよね?絶対に降るという予報はないし、そして絶対に降らない確率もない」
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