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「そうです!そういうことです!」
えっへん、とまるで誰にも理解することのてきなかった理を見事に説いた第一人者かのように態度を大きくする彼女。
ボクは今度は溜め息を口から吐きたいと思った。彼女の大半、つまり世界だの何だのと語っていた部分はあまり関係なく、ほとんどが無駄話にもほどがあるものだった。それに、こういった彼女との朝を過ごすのも実に無駄と思える。
キミほど彼女は達弁者ではない。ボクの心理を根底から見抜くことなどできない。
ボクの横を通り過ぎていく人は、みんなボクらを見ずに通り過ぎていく。みんなそれぞれの生活を持っていて、ボクもボクにあった生活があるんだ。
だけど、彼女と歩く通学路はどこかが違う。なにもキミと隣り合って歩いていたわけでもないのに。
「聞いていますか?」
ボクが生活の不快感を募らせていると、彼女はボクの前に立った。ボクは歩みを止め、情けなくも「わっ」と驚いてしまった。
彼女はまたもや不満そうな顔をしている。
「どうしたの?」
と恐る恐る訊ねると、彼女は眉を強ばらせた。
「聞いていますか?と訊いているんです」
彼女の不満をこれ以上悪化させないためにも肯定したいのが本望だが、1つの嘘から後に災厄を招く結果に発展するかもしれない。ボクは正直に「ごめん、聞いてなかった」と、さも聞いていなかったことに後悔してるかのような声音で言った。実際に後悔しているので、そう難しくはなかった。聞いていれば、ボクの通学は通せん棒されずに済んだのだから。
「仕方ないですね。二回までしか言わないので、よく訊いてください」
そう言うと、彼女は自分の胸に手をあてた。
そして、
「私の名前は誰でしょうか」
と言った。
ボクは心の底で笑った。
「さぁ、早く答えてください」
問いをせかす彼女。
こうなったらボクは苦笑いをするしかない。
だって、彼女の名前をボクが覚えているわけがない。
キミのことばかりが頭の中で永遠にループするこの頃をボクは過ごしているのだから。
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