忘れられない

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大きな音が鳴り響く。キーンコーン、と同じテンポで。 僕はそれを自分の机とにらめっこしながら聴いていた。 数分後、教師がドアを開けて入ってくるなり、出席を取り始めた。 あのあと結局、ボクは彼女の名前を思い出せず、そして彼女も自分の名前を名乗ることなく、僕らはこの学校の玄関で別れた。ボクは笑顔で手を振ったけど、彼女は眉を逆三角形にしたままで「放課後、理科室に来てください」と言って、自分のクラスの下駄箱へと向かった。 理科室、と言われたがどうするべきだろうか。 この学校は運動系の部活がほとんどで、ましてや理科室を利用することになるような部は1つもない。なぜに彼女はボクとの待ち合い場所を理科室などとセッティングしたのだろうか。きっと、彼女の言動の大半を理解できたキミが羨ましい。 ざわざわとした生徒たちの声よりもよく、教師の大人びた声が耳に響く。 「山根 蒼(やまねあおい)、山根 蒼…山根は欠席か?」 欠席になんてされたら、たまったもんじゃない。もし、空気くんなんてアダ名が今後のボクの高校生活に付きまとってでもしたら大変だ。 「はい!」 ボクは教室中に、ボクはいるんだよ、と証明するかのように大きな声で返事をした。 教師は、ボクを見るなり無言で頷いて、ペンをはしらせた。必ずしも×印は書かないだろう。 そして、ボクの後に続く数人の出席を確認すると、出席簿を教卓に置いた。 見ると、教師は神妙な面持ちをしている。いかにも、これから悲しいお話しをするぞ、といった感じだ。 「みんな、知ってるか?うちのクラスにいた朝宮 麻衣子(あさみやまいこ)が亡くなって、ちょうど1ヶ月が経つ」 何を話すかと思ったら、これか。 ボク以外のみんなは『誰だっけ?』といった感じだ。人によっては机の下に手を突っ込んでケータイをいじくっているのもいる。 朝宮 麻衣子…懐かしい。キミのフルネームを久々に聞いた。だけど、なるべくなら聞きたくなかったな。こんな人がいっぱいいるなかで…。
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