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眠ってもいないのに思い出してしまう。
キミが言った“あの言葉”を―――。
「私が死ぬまでに世界は終わるかな………」
ボクはまた、あの言葉を無意識にこぼしていた。
誰かに聞かれていないだろうかと思い、周りに視線を走らせるが、誰もボクを見ていなかった。ざわめきの中に、ボクの他人が聞くと不快になりかねない言葉は、上手く隠せたようだ、と思いながら胸をなで下ろしていた。
「ん?何か言ったか?」
教師が話を中断させ、生徒に右耳を傾ける。
その瞬間、クラス全員が話を止め、ざわめきは静寂と化した。
教師の視線が、クラスの端から端まで魚のように泳ぐ。誰が言ったかが顔に出るとでも思っているのだろうか。そもそもボクを含めた、この教室の全員は教師が誰の言った何を聞いて、気にとまったのかを知らない。
誰もが教師に、「さっき話していたことを、全て言え」なんて言われたら、プライバシーの侵害だ。彼氏彼女の話だったらどうする。クラスのほとんどが、教師が話している最中に喋っていた。一言だけだが、独り言を発したボクも微々たる不安を感じる。
無言で生徒一人一人の顔色の変化を窺っている教師は、人間の品定めをしているように見える。
やがて教師は顔を上げ、「空耳だったようだ」と口だけの謝罪を述べた。収まりが悪そうな顔で。
気になったのか、一人の生徒が挙手をして「先生、なんて言葉を聞いたの?」と訊いた。ボクも知りたいと思っていたので、好都合だ。
教師は少し照れ隠しながら「いやぁ、なんか“死ぬまでに世界が”とか誰かが言ったように聞こえたんだ」と言った。
その言葉を聞いた途端、ボクは悪寒を感じた。
「そんなこと言う訳ないじゃん。先生、耳が悪くなったんじゃない?」
「そうか?」
小首を傾げながらもなんとなく納得した教師は、教科書を開いて授業を始めた。
ほとんど聞いていなかったボクが思うことではないが、教師が語っていたキミへの弔いの言葉は、まだ途中だったような気がする。
「この間の続きからやるぞー。23ページ開けろー」
社会の教科書を片手に持ちながら、指示する教師。
ボクの机には筆記用具しか置かれていなかったので、ボクはノートと教科書を机の中から取り出した。
教師が教科書を読み始める。その部分をボクは目で追う。
このような繰り返しはキミが亡くなる前、そして亡くなった後も何の変化もなく続いている。
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