忘れられない

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授業が始まったのが、ついさっきだったかのように放課後はあっという間に訪れた。 ボクは1日のほとんどの時間を机に突っ伏し、眠っていた。起きたのは、せいぜい昼食時ぐらいだ。その他の時間のほとんどは熟睡していた。 もちろん。といって良いものなのか胸に突っかかるが、教師を入れて学校中の誰もがボクを起こそうとしなかった。生徒は面倒くさいから、教師はボクに気遣ってからであろう。誰もボクがキミの言葉に夜な夜なうなされているという悩みを抱えていることを知らないくせに。 「さてと」 ボクは鞄に教科書を入れて、席を立つ。周りには誰1人いない。 窓ガラスの向こうにある夕日は、落ち始めている。 ポケットから最近買ったばかりのスマートフォンを取り出し、映し出されている時間を見る。 彼女は待ち合わせ場所は言っていても、待ち合わせ時間は言っていなかった。もしかしたら待ちくたびれて帰っているかもしれない。だが、もしもの場合を考えてボクは彼女との待ち合わせ場所である理科室に早足で向かうことにした。 廊下を出ても人通りはなく、ボクだけが学校に取り残されたような気分になりそうだ。 ボクはまず右手側にある階段を下り、今日の朝も通った玄関を横に素通りする。2、3人ぐらいの話し声が少なからずもボクの耳に入ってきた。 「クソ沼、マジ最悪!何で呼び出されなききゃいけないの!!」 「マジマジ。たかがパチンコ屋のバイトぐらいで何でウチら説教くらって、おまけに反省文書かされなきゃいけないつーの、だよ!!」 「クソ沼死んでほしいわー」 「だよね、だよね。何で生きてんだよって感じ」 そんな感じの会話。クソ沼とは、生徒指導の釘沼のことだろう。一般生徒からの評判もよくなく、受け持っている授業では度々生徒を怒鳴る、還暦まであと三年ぐらいの数学教師だ。 別に釘沼を尊敬しているわけでもない、何の感情も湧かないボクは人並みに釘沼の引退を願った。
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