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今日やっと君を見つけた。
君は駅のホームで学校行きの電車を待っているところだった。僕が見ている限り、君は僕に気付いていない。
……というのも、気付いていたらそんなに呑気に音楽なんか聴いて笑っていない筈だから。きっと僕が君を見ているときには、そんな笑顔を見せないだろうし。
僕は久々に見ることの出来た君の笑顔を食い入るように見つめた。相変わらず可愛い。
君が僕に気づかないで良かった。そんな風に思う反面、いつまで経っても僕の存在に気づかない君に腹を立てていた。
それでも久々に君を見たことで、僕の心は有り得ないほどに高揚していた。
だから少し羽目を外すくらい、なんとも思わなかった。その日僕は初めて学校をサボった。
君を見失わないように、急いで反対側の君のいるホームに向かった。
電車はまだ来ない。
君を出来るだけ近くで見ていたかったが、逃げられたくなくて仕方なく五メートルくらい離れたところに立った。
それから2、3分して電車が来た。僕は君を見失わないよう、同じ号車に違うドアから入った。
電車はいつも僕が使用している下りと違って、だいぶ混んでいた。おかげで君が僕に気付くことはなかった。
乗車してから四駅で、君は降りた。どうやらここで乗り換えをするらしい。僕は勿論、君の跡をつけた。
エスカレーターで三番ホームに降りた。僕もその後に続く。すると君は少し歩いて、辺りを見回した。マズい。バレたか?僕は巻いていたマフラーで顔を隠した。
それからすぐに僕の尾行がバレていないことが分かった。僕はホッと胸をなで下ろす。
君は待ち合わせしている友達を探していたらしい。友達は君がキョロキョロしてから、1、2分してやって来た。
そして君は友達を見てニコッと笑い、おはよう。だとか寒いね。だとか他愛ない会話をして、電車を待っていた。
ひさしぶりに聴いた君の声は心地よく、僕を心の底から暖めてくれた。ただ、その可愛らしい笑顔と声を、僕ではなく、友達に向けていることを少し不満に感じた。
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