父親

2/11
前へ
/33ページ
次へ
私が初めて父親の存在を知ったのは、10歳の時で。 其れまでは、家は他所とは違う、でもそれを聞いたらお母さんが悲しむ、そう自分の中で封印してた。 母親と二人暮らしだけど、母の実家には祖父母も居たし、喩え父親が居なくても私には不満は無かった。 だって、初めから知らないんだから。 学校や近所で、浮気の子とか不倫の子って虐められた事も有ったけど、それよりも、私を産む事を選んでくれた、育ててくれた、お母さんが好きだった。 だから、悲しむ顔を見たく無くて。 私は、父親の事は心の片隅へ封印した。 そう、あの日迄は....。 「鈴ちゃん、お父さん欲しい?」 お母さんは、仕事から帰るなり私に尋ねた。 「どうしたの、お母さん....。 お母さんは、私と二人じゃ嫌なの? 私、お父さんなんて居なくても平気だよ、だってお母さんが好きだもん。 私、お父さんなんて要らないよ」 私は酷く狼狽し、焦り、得体の知れない恐怖に支配された。 お母さんに、捨てられるんじゃないか....。 そんな、曖昧で不確定な恐怖に。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加