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その時、耳慣れた音楽が店内に流れ出した。
閉店時刻の五分前を知らせると同時に、俺たち警備員の勤務開始五分前を告げる音楽だ。
ショパンが作曲したという事は覚えているが、曲名は知らない。
「おっと、もうショパンがなり始めたか」
長年、警備している岩中さんでも曲名は知らない様だ。
「そうですね、行きましょうか」
俺は客が少なかったという謎の事は、すっかり忘れて警備室に向かった。
警備室は三階の化粧品店の横にある。
全部で五階建ての『ラック・モール』では、真ん中の三階に警備室を置くのが一番らしい。
俺と岩中さんは、エスカレーターを上りながら、先週から行われているプロ野球のクライマックスシリーズの話に花を咲かせた。
「確かに、昨日はどっちのピッチャーも良かったよね……あれ?」
岩中さんは途中で言葉を切った。
「どうしたんですか?」
「あれって、店長さんだよね?」
岩中さんのいう「あれ」とは、俺たちの少し先で、立ち話をしている二人の男だった。
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