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崩れかけた態勢を、たたらを踏み何とか立ち直ると、直ぐに抗議しようと振り返る。
今まであたしが立っていた場所には、ジャバーウオックが居た。
腕には、薔薇の棘付きの蔓が巻きつけられて。
もしかして、あたしの見代わりになってくれたの?
助けに行こうと、ジャバーウオックの元に向かおうと駆け出したあたしは、止められる。
「俺は平気。先に行っててくれない?」
腕に鋭いトゲが刺さっている筈なのに、表情を変えず涼しい顔で、空いた左手で出口を示す。
それでもなお心配で、駆け寄ろうとするのを制される。
「アリスが近寄ると、巻き込まれるし、危ない。俺の事を思うなら、先に向かって欲しい」
初めて聞く強い口調は、叱りつけるようでも、諭すようでもあり、あたしに対する心配りを感じた。
「でも…」
あたしの為に、そんな目に合っているのに、放っておけるわけないじゃない。
「本当に大丈夫だって。優しい良い子だ。必ず追いつくから」
今度は、優しい声で笑みを浮かべてくれた。
紡ぐ声がとても穏やかで、魔法にかかったみたいに、何故か本当に大丈夫なんだなって気にさせられてしまう。
未だ、出口を指す指には、鋭く長い爪があって、あれなら枝を切れるかもしれない。
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