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鏡に映る有栖は、楽しげなのに。
今のあたしには、笑う余裕なんて、全くなくて。
実際は、強張った表情をしていると、自分自身、予測出来る程。
ただ不思議と、この現象を、怖いと思えなかった。
すごく驚いてはいるけど、鏡から悪意が感じられないからかもしれない。
名前を呼んでいたのが自分とわかって、ある意味、安心したのか、はっきりとした理由はわかんないけど。
手招きしてる、鏡の中の有栖を見て、思い切って、鏡に近寄ってみようと決めた。
遠くから眺めてたって、解決するわけじゃないから。
いざとなれば、鏡を割ってしまえばいい。
警戒しながらも、ゆっくりと、一歩ずつ踏み出す。
鏡は、逆光のようにギラギラと光っているようでもあり、靄がかかったように、曇ったようでもあった。
光の関係と言う理由じゃ、とても説明しきれない。
鏡の有栖は、愛想良く、ずっと微笑んでいたが、あたしが近くに寄ると、真顔に戻り、真剣な口調で話かけてくる。
「アリス。あなたを迎えにきたの」
そう言うと、鏡の自分は、何とも言えない複雑な顔をして見せる。
悲しいような、嬉しいような、色々な感情が混ざった顔。
その顔を見て、思わず手が伸び、指先が僅かに鏡に触れる。
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