序章  鏡の中の世界

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冷たく固いはずの鏡は暖かく、溶けてしまった様に、ぐにゃぐにゃと柔らかい。     驚いて、手を離そうとした瞬間、手を握られた感触がした。   それが、鏡の自分の仕業なのかと確かめる間もなく、手を思いきり、引っ張られる。       鏡にぶつかる! そう考えた途端、本能からか、一瞬で目を瞑っていた。             … ん?あれ? ……何もない、ような。     舌を噛む程、固い物にぶつかる衝撃も、破片が突き刺さるような痛みも、何もない。       ゆっくりそおっと、恐る恐る、瞳を開けてみる。     「あ、れぇ?」     目の前に、鏡があるはずなのに、鏡の反対側にあるベットと、壁に飾ったポスターが見えて、つい二度見してしまう。         え、と、全く、状況が飲みこめないんだけど。         部屋の中心で一回転し、部屋の中を、もう一度見渡してみる。      
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