人柱

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 その若い男はF県からひっそり越して来て、人目を避けて静かに暮らしていた。コンビニの深夜勤務のアルバイトでわずかな収入を得、隙間風の入るボロアパートで必要最小限の物だけで生活した。  それもこれも人目につくような事をして周りの人間に気づかれないようにするためだ。もし自分の出自が周りに知れたら、無理やり警察に引き渡されて、どこかへ連行されるという事は、もうF県出身者なら常識になっていた。  青年はいつもこう思っていた。どうして俺たちの方が、追われて逃げて隠れて、人目に怯えながらこそこそ生きて行かなきゃならないんだ?俺たちの方が被害者のはずなのに。  しかしついにその青年の素性に周りの誰かが気づいた。ある寒い日の深夜、アルバイト先のコンビニに四人もの制服警官が現れ、有無を言わさず彼を店のカウンターから引きずり出して連れ去った。
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