カンビュセスの内定

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「おめでとう。君たちは今年度の上場企業への就職が内定しました」  学長のその言葉に、大講義室に集められた俺たちはどよめいた。俺の隣の文学部の女子学生は思わず手で顔を覆ってすすり泣き始めた。気持ちは分かる。俺にも痛いほど分かった。  こんな何の特徴もない県立大学に入った以上、上場企業への内定なんてあるはずがないと俺もずっと思っていた。だがそれでも、もしかしたら、ひょっとしたら、という気持ちもまた心の隅のどこかでくすぶっていた。まさか、それが現実になるなんて。学長は神妙な顔つきで話を続けた。 「これから君たちは我が日本国の経済を支える名誉ある仕事に就く。どうか、みなでがんばってこの国を支えて欲しい」  俺の隣の女子学生の泣き声はもう辺り一帯にはっきり聞こえるほど大きくなった。泣き声の合間に、彼女はこうつぶやいた。 「そんな、どうして私が……ひどい!残酷よ!」  俺の前の席の男子学生はさすがに泣き出しはしなかったが、右の拳で机を何度もたたいて、うめくような口調で恨み言を言う。 「なんで俺なんだよ?俺、前世で何か悪い事でもしたのか?」
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