オリオンを見つめながら

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 峠に、二つの人影があった。微妙な距離感を保ち、お互い気まずそうな表情で、ただ黙って空を見あげていた。あたりには、他の人影は見当たらず、ひっそりとしている。  月のない、深い夜だった。真っ黒なキャンバスに金平糖を散りばめたかのように、いくつもの星が満天に輝いていた。都会では決して拝めない光景だろう。 「つかぬことをお聞きしますが、オリオン座の神話を知っていますか?」  気まずさを打ち消すように、ふと一人が口を開いた。スーツを着た四十代ぐらいの男だった。 「もちろん知っていますよ」  こちらも気まずかったのだろうか。スーツ男に笑顔を向けた。しかし、それはどこか憂いを帯びていた。青年らしくない顔である。 「かつて巨人オリオンという狩りの名人がいて、自分にかなう動物がいないと豪語していた。それを聞いて怒った地母神ガイアはサソリを仕向けた。そして、オリオンはそのサソリに刺されて死んでしまう。そのご、オリオンとサソリは星座となったが、オリオンはサソリを恐れているため、二つの星座は決して同じ空で出会うことはない」
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