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2016年8月
深夜1:00頃
迫り来る台風の影響で雨は激しく降る
深夜ということもあり辺りは行き交う人もなく、地面に打ち付ける雨音しか聞こえない
そんな暗闇の中、泥水を必死に蹴り闇夜の中を小さな物を布にくるみ、白い大きな建物から逃げるように走り去る女がいた
「はぁ!はぁ!!」
息が切れ、雨水が口に入り込む
それさえも構わず早くここから去らなければ!!
女の頭の中はそれだけしか考えられず、縺れそうになる脚をそれでも必死に運んだ
(この子だけは!この子だけは私の命に代えてでも!!
麗佳…私が麗佳の子を…あなたの愛した人の元へ必ず渡してあげるから!)
布にくるみ、雨に打たれないよう胸に抱いた物がモゾリと動く
「あぶ…うぶ…」
雷の光り、一瞬明るくなった周りに布の中の物が女の目にも見えた
自分のおかれた状況も解らぬまま、腕の中で母親を求める赤子の顔を…女は切な気に見つめた
一度振り返り、走って来たその道の先を見る
二度と帰ることのない大きな白い建物を見やり、女はまた必死に前へ脚を踏み出した
「光秀さんに!この子を渡すまでは死ねない!!
彼にこの子を託さなければ…この国は滅びる!!」
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