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2026年、秋、夕方
一軒の長屋で一人シクシクと11歳の少年は泣いていた
目の前で母が身体中から血を噴き出しもがき苦しむように息を引き取った
あまりの恐ろしい姿に、少年は手も出せなかった
部屋の隅で身を縮め、体から伝わる振動で襖がガタガタと鳴るのを震えながら聞いた
さっきまで母は元気だった
“夕食作るからね”と笑ってエプロンをし始めたのに…
いきなり苦し気な咳をしたかと思うと、口からも目からも…毛穴という毛穴から血を滲み噴き出し、今今事切れた
見開いたままの眼光が自分を見つめる
真っ赤な血の色に染まった瞳孔は、すぐに光を喪い人形のような目になった
何日歩いただろうか…
脚が痛い…
何処をどう歩いて来たのか…
茫然と道を歩いた少年
何処かから聞こえる少女の声に導かれるように、少年はその方へ脚を向けた
天使の囁きにも似た少女の声が心地良い…
何も考えていないのに、食べそびれたせいで腹が空くのがわかる
力尽き、脚が縺れ、少年はその場に崩れるように倒れ気を失った
遠くから駆け寄る足音と天使の声がまた聞こえた。
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