『満月の夜に』

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「あの話は嘘なんだぜ。都市伝説ってやつさ」 「え、そうなんですか!」  セオリー通りに程好く驚いてみせると、その反応に満足したのか、にやりと笑みを浮かべる男の表情が、ミラー越しにはっきりと確認出来た。まずは上出来だろう。  私は心の中で小さくガッツポーズをすると、引き続き男の話に聞き入っている振りをする。 「月の満ち欠けや重力が、人間の精神状態に及ぼす影響との因果関係には、何の科学的根拠も無いのさ。それに統計学的に見ても、満月の夜だけ犯罪の発生率が、著しく高くなるなんてデータ、世界のどこを探しても存在しないんだよ」 「ほぉ、そうなんですか。お客さん、物知りなんですね。学者さんか何かで?」  質問する形で返したが、実際興味なんて無い。客を気分好くさせる為の、所謂ビジネストークというやつだ。  しかし男は、俄に思わせ振りな含み笑いを浮かべると、首を横に振った。  
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