『満月の夜に』

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 私の身を案じているのか、それともほくそ笑んでいるのか。  何れにせよ、ミラー越しに真っ直ぐこちらを見詰める彼の視線は、私を蛇に睨まれた蛙の様な気分にさせた。 「お、お客さん、怖い事言わないで下さいよ。嫌だな……」 「悪いね。でも、運転手さんから臭うんだよ。何て言うか、とても危険な臭いがさ。それにほら、今夜は満月だろ?」  人の凶暴性と、月の周期は関係無いと言い出したのは、この男からではなかったか?  だが、私の思いなどお構い無しに、男は再び窓外へと視線を移すと、聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声で、ぼそりと呟いた。 「……気を付けろ。今夜は満月だ」  
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