『月に吠える』

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「……ああ、だから5、6メートルだって言ってんだろう。ユンボで掘りゃあ直ぐだよ、バカ!」 「あの……お客さん?」 「赤土が出てくりゃあ大丈夫だ……平気だってんだよ。地滑りでもしねぇ限り、出てきやしねぇ!」 「……お客さん、着きましたよ」 「……」 「お客さん、起きて下さい! 新宿です」 「……ん? あ、ああ……申し訳無い」  人の良さそうな顔立ちをしたサラリーマン風の男は、大きな欠伸をする。  そして蟀谷辺りをポンポンと叩き、微睡んだ意識を無理矢理に揺り起こすと、運賃を払いながら「ありがとう」と頭を下げ、気怠そうに私のタクシーを降りていった。  彼の大胆且つ大き過ぎる寝言は、聞かなかった事にしようと思う。  
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