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妻はその強靭な精神力と、決して諦めない生への希望を胸に四度のガンを克服してきた強者だった。
告知される度に妻は、
「大丈夫、私は不死身のノンちゃんだから!」
哀しく笑った。
私はむせび泣いた…。
生きることを否定され、人生を奪われ…、それでもなお妻は未来に希望を見た。
死と向き合う妻はどんな思いでいたのだろう…?
一人淋しく逝くということは…?
泣きじゃくるわたしに、
「とうやん、泣いちゃダメ。あ~ぁ鼻水たらして…」
妻は笑いながらわたしを抱きしめる。
消え去ろうとする命に必死にしがみ付きながらも、自身が抱える不安を決して外に出さない女であった。
わたしはそんな妻にもののあわれを見て、また泣いた…。
わたしの犯してきた罪を神は許してはくれない…。
どんなに懺悔をしても、わたしに贖罪はない…。
信仰を棄て神を裏切り、悪魔に魂を売った罪深いわたし…。
しかし原罪はわたし本人であって、妻は罪人ではない。
それなのに…、何故妻にこんなにも残酷な試練を課す。
なにが神の試練だ…。
「戯れ言をいうな!」
わたしは神を罵り、唾を吐き捨てた…。
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