352人が本棚に入れています
本棚に追加
一呼吸置き続ける。
「万人が助かるなら、多少の犠牲は仕方ないんですかね」
「……多少の犠牲が出るのは仕方がないと思うよ。でもその犠牲になった人からすると、それは悪になる」
「では、ヒーローというのは正義ですか?」
「うん。正義だね。そしてその敵も、また別の正義。僕はそう思うよ」
「……ありがとうございました」
男の次の言葉を待たずにその場から立ち去る。頭の中で男の言葉がぐるぐると回っていた。
犠牲になった人からすれば、それは悪となる。
「俺は……悪か」
空を見上げて自分をせせら笑い、家路をたどる。
「ただいま」
誰も居ない部屋に虚しく響く。荷物をテーブルに置き、シャワーを浴びる。頭から排水口に流れる水に乗せて、ヒーローパワーも流し落とせたらと何度も思った。
当然ヒーローパワーは流せず、シャワーを浴び終わり服を着る。冷蔵庫からビールを取り出してあおるように飲んだ。酒を飲む様になったのも、ヒーローとして活動し始めてからだ。飲まなきゃやっていられない。正にその状態だ。
ソファーに深々と座りテレビの電源を入れると、怪人との戦いの模様が報道されていた。
ヒーロー五人がイーマンと戦い、オクトペイジーの攻撃をかわしてミラクルトルネードで見事撃退したという内容だった。
オクトペイジーからの攻撃を受けた事や、ヒーローが放った光線が建造物を破壊している事は一切報道していない。
最初のコメントを投稿しよう!