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「先客が居たようだな」
心臓に響く様な声が聞こえたが、特に慌てる事無く声の主に目を向けた。黒いマントで身を包み、顔は角が生えた何かの頭蓋骨を被っていた。今までの怪人とは違い物々しいオーラを発している。
「何故逃げない」
「貴方は何もして無い。だから逃げる必要が無い」
「ほう……。おかしな人間も居るんだな。我を見ても顔色一つ変えぬとは」
「生憎化け物は見慣れているんでね」
怪人は少しずつ近付いて来る。淡い期待を胸に、怪人にある願いを伝える。
「俺さ。ヒーローの一人、ブルーなんだよ。変身していない生身の状態。だから、俺を殺してくれないか」
目の前に立つ怪人を見上げて言い放つ。表情は分からないが、何となく怪人が笑っている気がした。
「何故死にたい。ヒーローなのだろう? 名誉な事ではないか。なりたくてなれる物では無い。選ばれた人間だけがヒーローになれるのだ。それをなげうつというのか」
「俺は元々ヒーローになんかなりたくなかった。……ヒーローに殺され掛けたんだよ。誰が好き好んで殺され掛けた相手と仲良く手を繋ぐんだ。万人を助ける為なら、俺自身がどうなろうと構わないのか? 俺は……知らない奴らの為に、自分を犠牲にするのはもうごめんだ。ヒーローが正義だというのなら、俺は別の正義を掲げる」
こんな得体の知れない奴に何を言ってるのかと、自分でも思う。でも、得体の知れない奴にだからこそ、言えるのかもしれない。
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