消える

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「それっきり、さ」 博士は虚空を眺め呟く。消えるトンネル……か。なかなか面白い話だった。僕は財布を開こうとした。が、そんな僕を一瞥すると博士は吐き捨てるの様に言った。 「この話は無料さ」 と。 曰く、血相を変えて売主は店を出て行ったそうだ。消えた何者かを捜さなくては、と言い捨てて。博士が代金を支払う前に「消えた」らしい。それっきりだそうだ。 「そんな話。よく覚えてましたね」 本当に不思議だった。行方不明届けも出ない。つまり、消えた何者かの親御さんの頭からも存在は消えてるらしい。 「私も気付いたのは、昨日のことさ。手帳と、そのページに挟まってるこれを見てね」 これと言われた物は、一枚の万札だった。この話の価値らしい。そして、手帳は博士がいつも話を買う際にメモを録る物。狭い店内は無数の手帳で覆い尽くされている。随分、品揃えが豊富な店だ。 「正直言うなら、私は売主の顔も声も背格好も覚えていないよ。どうやら本当に――――」 「消えるらしい……ですね」 博士の言葉を最後まで聞かずに僕は呟いた。
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