消える

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「消えるんだとさ」 僕の分の珈琲も淹れながら、博士は不意に呟いた。 「消える……ですか」 「そうだ」 地下に構えた店のスペースは、恐らく六畳程。店と言うよりはワンルームのアパートのそれに近い。其処の店主と言うのも疑わしい赤毛の天然パーマの人物が、博士である。 映画に出てくる科学者がよくしてる様な眼鏡が、博士が博士たる所以だ。そして、いつも唐突に僕に話を売るのも博士が博士たる要素の一つ。今日の話は幾ら値が張るのだろうか。 「二年程前に、高校生から買った話だ」 「へぇ~」 木目が荒いテーブルの上に置かれた珈琲をすする。博士も同じく口にする。 「苦いな」 文字通り、苦虫を噛み潰した様にいつもそうぼやく博士は、自称生粋の無糖派だそうだ。無理せず、砂糖を混ぜるべきだといつも思う。
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