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待ち合わせ時間よりもまだ少し早い為、大神は道すがら一人で何処かへと向かって路頭の中で歩を進め、ふと遠い青空の向こうを見詰めていた。
そして大神は更に歩を進める内、いつしか町外れにある墓地に辿り着いていた。
「よっ……久しぶり」
そこで大神はとある墓の前でしゃがみ込むと、花を添え、水を流し、線香を焚き、手を合わせ、最後には哀しそうな笑みを浮かべながらそう漏らした。
それから暫くの間、静寂が支配する中で何をするでもなく沈黙が続き、それも十数分と過ぎると、
「それじゃ…また来るわ」
ゆっくりと立ち上がり、その場から立ち去る。
その墓石の脇に刻まれた生年は大神と同じ年のようで、しかしその没年は今より三年程前だった。
この墓が誰のものなのかは、大神は誰にも語ろうとせず誰も知らないのだが、例外として奈津美だけはその存在を知っていた。
「さて…行くか」
大神は、その彼女が亡くなった時から"感情"というものの大半が欠落しており、奈津美は当時からずっとその事を気に病んでいた。
喜怒哀楽の内の"楽"のみを残し、それ以外は何の感情も抱かない。
あの時のように、哀しみ故に泣きじゃくる事も、憤り故に怒り狂う事も、かつて子供だった頃のように無邪気に喜ぶ事さえも……。
大神はふと時計を確認すると、急いで奈津美が待つ駅前広場へと向かう事に。
そこで何が待ち受けているかも知らずにー。
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