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ここから5分くらい、やつのどっかの本からパクった組織論のご披露と、つまるところ「お前のせいで面倒なことになった」という愚痴が続いた。とにかくおれはひどく大便が詰まった人のように足が痺れるほど便器に腰掛け、頭を垂れたままひたすらに耐え続けた。なぜ5分くらいかというとその間に急行と各駅がそれぞれ1本ずつ通り過ぎたからだ。場内アナウンスや鉄道職員の安全確認の合図が響くたびにおれはバレやしないかとビクビクしたが、その間アホ課長は《どれだけ息継ぎをせずにしゃべり続けることができるか》という世界記録にでも挑戦しているように必死で、外のこともおれのことも全く意に介していない様子だった。
電話相手のことを意に介さない、って、何のために電話しているんだこいつ。幼児教育用の《お電話キット》でも買い与えてやろうか。
「……でだな。朽津木研究室の件だが」
よりによって一番聞きたくない話題だ。
「……あの……ある程度話は聞いてますんで……」
「あ、それは昨日の話か?結局どうしようか考え中でな。それで電話したんだよ」
意外な発言だった。昨日から状況が変わっている?
嫌な予感がした。
「キミがこういう状態だから浅田くんに担当を替えようと考えてた。知っての通り朽津木研究室はうちのお得意様だからな。営業の穴が空くことは許されない。営業の本質は《すぐそこに在る》ことだからな。何かあったら相談できる。何か欲しいな、と思った時にすぐそこにいて話を振ってもらえる。そういう地道な努力の積み重ねが後々の大きな売り上げを気付き上げるわけだ。したがって誰かを早急にアサインするべきだ。そこで今ちょうど浅田くんが大沢工業の案件が設置まで終わってあとはアフターフォローだけという形で手があいていてな。そのまま当てはめようと考えた。至極妥当だろ?」
何が妥当だ。断言しても良い。今やつが読み上げた《文面》の9割は浅田が言った言葉そのままだ。やつには脳ミソなど無い。断言しても良い。
「はぁ……おっしゃる通りかと」
しかし面倒は御免なのだ。
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