― 指宿(いぶすき)の章 MOON ―

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「はい、はい、わかりました。それでは失礼します……」 通話停止を押し携帯を閉じ、おれは深く嘆息した。その息に乗って流れるようにこぼれ落ちた言葉。「死ね」結局それは意味も無く宛先も無い戯言で中空を漂っていった。 おれはふと先ほどの携帯画面の残像を思い浮かべ2つの意味で冷や汗が出た。ひとつ、時間がすでに13時を回っていた。ふたつ、電池残量が既に20%を切っている。長時間通話と……よりによって昨晩充電し忘れたようだ。 最悪の気持ちで便所を出るとちょうど列車がホームに入ってきた。満身創痍でそれに乗り込むとドアから一番近いシートに向けて自由落下のごとく座り込んだ。
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