― 指宿(いぶすき)の章 MOON ―

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* 鬼ごっこ、隠れんぼ、宝探し。どれも楽しかった思い出なんて無い。 平均点的なルールにのっとったゲームは得てしてその平均点から外れた人間には楽しめないようにできているのだ。運動神経もそれを補う知略も無いおれは、とにかく時間が過ぎるのを待って過ごしていたものだった。 しかし、今日のkuitとの鬼ごっこのような宝探しのような隠れんぼのようなゲームは別格だ。おれは夢中になり時間が経つのを忘れた。校舎内を隈無く捜索すると手書きの見取り図に順にバツ印を付けていった。 おれは数時間かけて全ての部屋にバツをつけていったが手掛かり無し。しかしおれは徒労感どころかほぼ全てを回りきってからこそがさらなる楽しみだとすら思っていた。 「ここにはおれの現状の理解を越えるものがある」 見落としにワクワクすることなんて普段あるわけがないが、今日に限っては見落とし、ミス、勘違い、既成概念は全てこのゲームを楽しむためのスパイスのようだった。おれは何かのレクリエーションホールらしき広い部屋で歩みを止め、タバコを吸いながら一時思考することにした。 全ての部屋は回りきった。そして取り立てて何も無いことは確認した。全て廃墟だ。ところどころ小学生が書いたらしき黒板のメッセージがあった。「これがひょっとしてkuitの暗号か」とも考えたがどうにも結びつきを見つけられなかった。純然なるラクガキにしか思えない。したがって一度その線は捨てることにした。 「そうすると……隠し部屋?」 自らのスムースな思考に感嘆する。そうだ。校舎の中を歩いて感じていた違和感は「こんな奇抜な学校の割に校舎内は割と普通だな」だった。何か仕掛けがあるくらいの方が、不思議と納得感がある。 おれはさらに重要な見落としを思い出した。 《神御黒小少女殺害事件》 そうだ間違いない。あの事件でも少女は首を絞めただけでは死なずにどこか貯蔵庫のようなところに閉じ込められてそこで餓死したんじゃなかっただろうか。 「チクショウ、もっとしっかり調べておくべきだった……」 おれは手のひらで太腿を叩いたが後の祭りだった。 しかし過ぎてしまったことは仕方がない。見つけてやろうじゃないか、隠し部屋を。 「ある程度のサイズの空間を隠すことができる場所か……」つまりは通常ならば地下、もしくはここの立地の特殊性を利用するならば山側だ。
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