― 指宿(いぶすき)の章 MOON ―

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地下なら1階の全てが候補、山側なら候補は限られる。1階の体育館側だ。効率を考えると体育館まで移動しながら1階の各所を見直していけば良い。そう判断するとすぐさまタバコを床で消して歩き始めた。 1階をなめて歩いたところでそれらしき物は見つからなかった。正確に言うと、おれは《体育館裏》に賭けていた。いや、半ば本能的に正解だと感じていた。 スッと入ってくる感覚。一本に繋がった感覚。 幸福なことにその感覚は裏切られなかった。 おれは2人がギリギリすれ違える程度の幅の通路を生い茂った草木を踏み分けながら体育館裏へと進んだ。そこには少し開けた空間があり古く錆びた焼却炉が設置されていた。ゴミの収拾コーナーかと一瞬思えたがよく考えると他のゴミを置くようなスペースは無い。如何にも不自然だ。 おれは焼却炉の扉を開けて覗き込んだ。案の定明らかに焼却炉として使っていた形跡がない。灰なども落ちていないし、汚れも無い。第一に焼却炉にしては扉も中の空間も広過ぎる。4つんばいになればかなり大柄な大人だとしても余裕で入れるサイズだ。安全性を考えてもこれが焼却炉であるはずがない。 ライトの類いは持ってきていなかったのでジッポを取り出し、火をつけた。そして注意深く焼却炉の中を見渡すとその向こうにさらに別の鉄の扉を見つけた。やはり焼却炉自体がダミーでその扉が本命だったのだ。 おれは立て膝の姿勢で焼却炉の中へ入ると自分の身長の半分程度の第二の扉を開けた。 中は真っ暗で何も見えないが、扉を開けた音の反響から、かなりの広さであることが伺えた。信じ難いがひょっとして体育館1個分くらいあるのかと思えた。 一歩目を踏み出す。第二の扉の中は余裕で立ち上がることができた。手を上に伸ばしても天井には届かない。それどころか天井は相当遠くにあるように感じた。おれは内部に向けて目を凝らしたが依然内部を見渡すことはできない。ジッポの光はひどく指向性が広く、目的のものを照らすためにはあまり役に立たないのだ。 中へ進むしかない。一歩一歩と中へ進むたびに温度が1度ずつ下がっていくように感じた。ピンと張りつめた空気の中で反響する靴の足音。その反射は音の周期をメチャクチャに乱し、まるで何人もがそこにいるようだった。 「あ」
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