― 三ノ輪の章 SUN ―

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「それにしても久しぶりだよねー。こう、しっかり会うのも」 「そうね」 「多分、去年の事務所の忘年会とかが最後じゃない?ゆめちんそういうイベントものほとんど顔出さないからー」 「去年は行ってないわよ。一昨年は行ったけど。社長がGALETTAのステージ衣装のコスプレして痴態をさらしてた時」 「あ、それそれ、一昨年かー。そうそう、あれは最低だった」 「何が最低って、《処理》が万全だったところだな」 「そう。『今年見事デビューを飾った彼女たちを支えるために、おれは文字通りひと肌でもふた肌でも脱ぐつもりだ。当然、毛くらいいくらでも剃る!』とか言ってね」 「まぁ、昔からあのオッサンはあんな感じだったけどな」 「あ、そう言えば私たちがまだユニット組んで1、2年の頃にもさ、誰だっけ。お笑いのコンビが事務所にいただじゃない。当時は」 「ある程度売れてたやつらだとしたら、《ネオ・そふと》じゃない」 「そう、そんな名前のコンビ。彼らが渋谷でライブやったときに乗り込んで社長自ら舞台に立ったって逸話があったはず」 「へぇ」 「コントに出たんだって」 「何の役で?」 「踏まれて悶える豚奴隷」 見合って場違いに爆笑する2人。綾乃がテーブルを叩かんばかりの勢いで両手を振りかぶったが、さすがに思いとどまって膝の上に降ろす。結女も口に含んだワインを吹き出さないよう必死にナプキンで口を押さえる。 「SMねぇ……くっくっく、そっちの趣味があったとはねぇ。うちらもヒールで踏んでやるか」 息も途絶え途絶えに結女が言う。 彼女たちの呼吸が整いかけたところで様子を伺っていたウエイターが魚料理をテーブルに並べる。彼が落ち着いた口調で『平ビラ目のムニエルとジェノバソース』と言ったが含み笑いを耐えるので精一杯の彼女たちの耳には入っていなかった。 「そういえば、GALETTA。売れてるよねー。彼女たち。事務所の後輩としては誇らしいわー」 「そうね……」
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