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茂みの方へ向かって怒りをあらわにする。すると業を煮やした守衛が警棒をチラつかせながら歩み寄ってきた。
「すぐ、すぐ、行きますので……」
門の方へ身体を向けるとバッグを開けて荷物を確認する。ひとつひとつ。
メンソールのタバコ、真っ黒のジッポライター、財布、定期入れ、マンガ、ゲーム機、メモ帳、名誉、プライド、自尊心、安定した日々、あのクソアマ、知ったかぶりの税金泥棒、どんなに訴えても他人事のクソ鉄道職員。
疲労で身体から漏れかかっていた恨みの欠片と汚濁を確認し、掬い、拾い上げていく。
一息つき、顔を上げて歩き始める。シャツ一枚は若干肌寒かったがそれが理由ではない。
怒りで、冬でもないのに震えた。
月は頭上で優しい弧を描いていたがおれはそれを賛美する気にはなれなかった。
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