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中途半端なその態度に、恵里佳は不快感を感じたが、そのままお釣りとレシートを受け取って、店の扉を開けた。
《ガラガラガラ……》
曇りガラスを挟んだ扉を開けて、暖簾を右手の甲で押しのけて、店を後にした。
(言えないなら、最初から顔に出すなよ…!)
と心の中で毒づきながらも、
(…でも、あんな顔するなんて、ここら辺て何かあるのかな…?)
突然言い知れぬ不安感が恵里佳を襲う。
(あのマンションと言い、なんか嫌な所だなぁ…)
そう思うと、自然と顔が下に向き、俯いてしまう。
「ママ~!どうしたの?」
康一の声に、我に返る恵里佳。
「あ…ごめんごめん。何でもないよ」
適当に返事をした。
それからマンションに帰り、お風呂に入り、引っ越しで疲れている家族全員が、パッタリと寝てしまった。
まるで死んだ様に─。
翌朝、昨日はあれだけどんよりと重く感じていた我が家が、今朝は清々しく感じた。
(昨日のあの感じは何だったんだろ…)
恵里佳は首を傾げつつも、朝食の準備を始めた。
「えりちゃん、おはよう」
康一がネクタイを絞めながら、リビングに入って来た。
安いマンションを買って、得したと思われがちだが、旦那の会社や子供達の学校からは、些か遠くなってしまった。
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