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「ママー!ママ~?」
踊る様な声が、狭いアパートの中に響いた。
声の主は、春森家の大黒柱である春森康一だ。
「パパ~?何大きな声出して」
妻の恵里佳が返事しながら、寝室として使っている、一番奥の和室から、めんどくさそうに出て来た。
「パパおかえり~。どうしたの?そんなに興奮しちゃって…」
恵里佳は、康一の興奮ぶりに、若干引いている。
「子供達は?」
落ち着きないが、一応子供がいないことは気になるらしい。
「2人共お風呂」
「そっか、いやぁちょっとえりちゃんに相談があってね」
康一は、子供達がいない時には、妻のことを『えりちゃん』と呼んでいる。
「そうなの?とりあえず着替えてきたら?」
妻の言葉に康一は、自分が仕事から帰って来て、まだスーツとコートを着たままだということに気付いた。
慌てて上下スウェットといういでたちになると、台所で料理を作り出した妻の横に立った。
「えりちゃん前、マイホームは無理だとしても、せめてマンションは買いたいなぁって言ってたよね?」
夫の言葉に恵里佳は、キャベツを千切りにしながら、
「言ったけど、そのマンションだって、決して安くはないじゃない」
包丁から目を逸らさずに言った。
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