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《ブロロロロロー…》
《ブオォォォー…》
引っ越しトラックが、軽快に走っている。
このトラックの行き先は、春森家が今日から暮らすマンションである。
そのトラックから少し後方を、康一が運転するシルバーのワンボックスカーが追走する。
「あともう少しで、新しい我が家に着くぞぉ」
父親の言葉に子供達は、後部座席でワーイワーイとはしゃいでいる。
恵里佳は未だに憂鬱で、なんだか気乗りしない。
『訳あり物件』って言うのは、最近流行っているが、立地条件が悪いとかなら、恵里佳も両手を上げて喜ぶが、そうではないかもしれないし、違うかもしれない…あやふやな状態なので、余計気になった。
それにしてもこの町は、何とも言えない雰囲気に包まれている。
不気味な程どんよりしている。
こんな町に、これからずっと暮らさなきゃいけないのかと思うと、非常に気が重い。
康一には、なぜかこの嫌な雰囲気が分からないようだ。
分からない振りを出きるような人じゃないから…。
そうこうしてるうちに、車はマンションの前に着いた。
先に着いた引っ越しトラックが、早速春森家の家財道具を運び出そうとしている。
夫が勝手に契約して来た物件なので、今まで写真でしか見たことがなかったが、写真の方がいいと恵里佳は思った。
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